空き家は地方が多いのはなぜ?
「空き家問題」は長らく取り沙汰されている問題ですが、一向に解決の糸口が見えません。
日本全体が抱える問題ではありますが、都市部と地方では空き家が増える背景が異なるケースがあるようです。
今回は地方の空き家に焦点を当てて空き家問題について考えてみます。
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空き家の種類について
本記事では、空き家の種類が関係してきますので、まずはじめに空き家の種類について解説をします。
空き家は大きく次の4種類に分類されます。
二次的住宅
普段は誰も住んでいないが週末や長期休暇などを利用して避暑・保養などの目的で利用される別荘、あるいは同じく普段は誰も住んでいないが残業等で遅くなった場合などにただ寝泊まりする場所として確保してある住宅を「二次的住宅」と言います。
所有者が明確で年に数回程度は利用されますが、基本的には住んでいない時間の方が長いため空き家扱いとなります。
賃貸用の住宅
新築・中古、戸建・マンションの一室などを問わず、賃貸に出すのを目的で保有している住宅のうち、入居者が見つからずに空き家状態となっている住宅です。
特にマンションなどの集合住宅では人口の減少の影響もあって常に満室という状態はあまり見られなくなってきています。
売却用の住宅
新築・中古、戸建・マンションの一室などを問わず、売却するのを目的で保有している住宅のうち、買い手がつかず空き家状態になっている住宅です。
親から相続した実家、子供が出て行ったので広い家に住む必要がなくなったなどの理由や、売り出し中の分譲マンションや住宅などが該当します。
その他の住宅
上記に該当しない空き家です。例えば所有者が転勤や入院などで長期間に渡って不在になっている住宅や、建て替えのために取り壊すことになっている住宅を指します。
建て替えのためであればまだ良いのですが、単に誰も住んでおらず管理等も行き届いていないケースが圧倒的に多いため、賃貸価値や売却価値もなくなり「どうしようもなくなった住宅」 の方が問題です。
このように空き家にはいくつかの種類があります。
この中で特に問題となっているのが「その他の住宅」です。
空き家率について
まずは日本全体の空き家率についてです。
総務省統計局「住宅・土地統計調査」の最新情報(平成25年)によりますと次のようになります。
日本の空き家率
住宅総数:60,628,600戸
空き家総数:8,195,600戸
空き家率:13.52%
これは先ほどの4種類の空き家の合計です。内訳は以下の通りです。
日本の空き家の内訳
二次的住宅:5.0%
賃貸用の住宅:52.4%
売却用の住宅:3.8%
その他の住宅:38.8%
空き家率が高い都道府県は以下の通りです。
都道府県別空き家率
山梨県:22.01%
長野県:19.75%
和歌山県:18.07%
高知県:17.79%
徳島県:17.54%
これが全体の数字です。
では、問題の「その他の住宅」の空き家率について見てみましょう。
日本の住宅総数に対する「その他の住宅」の空き家率
住宅総数:60,628,600戸
その他の住宅の空き家総数:3,183,600戸
その他の住宅の空き家率:5.25%
都道府県別に見るとこうなります。
都道府県別・住宅総数に対する「その他の住宅」の空き家率
鹿児島県:11.0%
高知県:10.6%
和歌山県:10.1%
徳島県:9.9%
香川県:9.7%
特に懸念材料となっている「その他の住宅」の空き家率が高いのはこのようなランキングになりました。
先ほど上位に入っていた山梨県は8.0%、長野県は7.6%となり上位からランクダウンしました。
これは、長野県や山梨県はその土地柄から別荘などの「二次的住宅」が多いことと、比較的「賃貸用の住宅」が多いことが挙げられます。
なお、東京都・埼玉県・神奈川県などの都市部では「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」「二次的住宅」が多くなっており、「その他の住宅」の空き家率はそれぞれ東京都が2.07%、埼玉県が3.44%、神奈川県が3.06%となっています。
とはいえ人口が異なるため「率」で比較するのは正確性に欠けるかも知れませんが、この数字だけを見ると都市部は「賃貸・売却・二次的」が多く、地方は「その他」が多いということが窺えます。
地方で空き家が急増している意外な理由とは?
空き家が増える理由としては様々な背景があります。よく目にするのはこのようなことではないでしょうか。
■人口の減少
■少子高齢化
■過疎化
■核家族化
■税制の欠陥
■新築至上主義
■相続問題
現代~近未来の日本を悩ませるであろう問題がそのまま住宅問題にもつながっていると言えます。
確かに、これらは空き家が増える(減らない)要因になっていると言えるでしょう。
現に、人口の減少が始まっているにも関わらず「世帯総数」は増えています。
そのため「住宅総数」も増えていますので、空き家率はどんどん上昇していくことは明らかです。
日本人独特の「新築至上主義」に加え、例えば建築に1兆円を費やすと2兆円の経済効果が見込める(おおざっぱで申し訳ありません)という国の思惑も重なって、新築が推奨されてきた結果です。
しかし、もっと意外な観点から地方の空き家が増えている理由について見解を示しているのが、山形大学准教授の貞包英之氏です。
貞包氏は著書「地方都市を考える」の中で次のように述べています。
地方都市では、とくにそうである。
地価が安い地方都市では、新築の快適な家を建てることが容易になっている。
実際、三世代同居も目立つ一方で、わずらわしい家族関係を避け、20代、30代半ばまでに持ち家を持つことも珍しくはない。
地方都市の中心部では2,000万円台で70平方メートルの高層マンションを買うことができるのであり、また郊外に家を建てることもさかんなのである。
結果として中心と郊外には、新築住宅が集積する。
たとえば山形でも2014年に建てられた住宅数の27%が山形市に集中し、さらにそれを含めた市部に新築の86%が立地している(新設住宅統計)。
そうして地方の比較的狭い地域に安価な価格で快適な住居が集まっていくにつれ、時代遅れの家を住めないものとみなす、歴史的にみれば特異な「居住感覚」もますます自明視されているのである。
一部の抜粋のみで申し訳ありませんが、非常に面白くかつ的確な観点からの見解です。
地方は物価が安いため消費が活発であり、家を建てるということも都市部に比べれば比較的容易であるが、快適性を求めるあまり、これまで十分に生活することができた住宅を「生活可能」なものとして認めず、そのために賃借人や売却先を見つけられずそのまま放置されてしまうという構図です。
空き家率30%がデッドライン?
少し前になりますが、2007年に北海道夕張市が財政破綻したというショッキングなニュースが流れたのを覚えている方も多いことと思います。
この時、夕張市の空き家率は実に33%だったと言われています。
また、アメリカではミシガン州デトロイト市が2013年に財政破綻しましたが、こちらも29.3%という空き家率でした。
そのため一部の専門家の間では「空き家率が30%を超えると自治体は財政破綻する」とさえ言われています。
何の改善も見られないまま日本の空き家率が上昇し続けると、2033年には30.2%に達すると言われています。
これは自治体どころではなく、日本が財政破綻してしまうというリスクがあることを示しています。
空き家問題はこれからが本番
空き家問題は簡単に解決できる問題ではなく、また短期間に解消する問題でもありません。
たとえ今後出生率が上がって人口が増えたとしても、その時に生まれた子供たちが家を持つようになるまで20年~30年もかかります。
国が掲げている政策の中には特効薬のような解決策はありませんので、どのように空き家問題を解決していくべきか、私たち国民全体が考え始めた時、何かしらのアイデアが生まれるかも知れません。
ぜひ、空き家に対する正しい認識と危機感を持っていきたいものです。