空き家を相続するメリット
増え続ける空き家対策の一環として国は平成28年4月1日から「相続した空き家を売却した場合の3,000万円特別控除の特例」をスタートさせました。
具体的にどのような特例で、どのような人やケースが当てはまるのでしょうか?
空き家問題解決への強力な一手になり得るのでしょうか。
今回は「空き家相続特別控除」についてひも解いて行きたいと思います。
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空き家を解体できずに所有し続ける大きな理由は?
相続した空き家を解体せずに所有し続ける理由は、故人やその家屋への思い入れが強く、気持ちの面で解体に踏み切れない、単純に解体費用を捻出できない、といったケースもありますが、解体して更地にすることで「固定資産税」の軽減対象から外れてしまい、最大で6倍まで跳ね上がってしまうという税制も大きな理由の一つとなっています。
特に地方においては、若い人は利便性を求めて都市部に移住してしまうことが多く、相続人がその空き家に住むケースが非常に少ないため、空き家がどんどん増えている状況となっています。
超高齢化社会や人口の減少を迎える日本では今後さらに空き家が増え続けますので、その対策の一環として国が「相続した空き家を売却した場合の3,000万円特別控除の特例」を創設したのです。
「相続した空き家を売却した場合の3,000万円特別控除の特例」とは?
具体的にどのような特例なのかご紹介します。
どんな特例?
相続した日から3年を経過する日の年の年末(例:平成28年4月1日に相続したら平成31年12月31日)までに、相続人がその家を売却または解体した後の更地を譲渡した場合、その譲渡所得から最高3,000万円までを控除するというものです。
なお、解体せずに売却するケースにおいては、耐震性が基準に満たない場合はリフォームが必要です。
*譲渡所得とは?
譲渡所得は不動産の売買によって得た利益のことで、「売却した金額」から「取得費(購入した金額)」と「譲渡費用(諸経費)」を引いたものになります。
1,000万円で購入して1,500万円で売却、諸経費が100万円だった場合
譲渡所得 =1,500万円 ー 1,000万円 ー 100万円 = 400万円となります。
ここに譲渡所得税と住民税が課税されます。
*譲渡所得税と住民税
不動産を売却した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えていた場合「長期譲渡所得」となり、5年以下の場合「短期譲渡所得」となります。
それぞれ税率が異なります。
長期譲渡所得:20.315%(所得税15.315% 住民税5%)
短期譲渡所得:39.63%(所得税30.63% 住民税9%)
先ほどのケースに当てはめると、譲渡所得400万円に対して次の譲渡所得税と住民税が翌年の確定申告時に納税することになります。
長期譲渡所得:400万円×20.315%=81万2,600円
短期譲渡所得:400万円×39.63%=158万5,200円
「相続した空き家を売却した場合の3,000万円特別控除の特例」を受けた場合、これらの税金を支払う必要がなくなり、売却した金額も手にすることができます。
特例を適用するために必要な要件
・相続開始直前まで被相続人が一人で居住していたものであること
・昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
・マンションなどの区分所有建物ではないこと
・相続開始から売却まで事業・貸付・居住用に供されていないこと
・譲渡価額が1億円以下であること
・相続開始の日から3年を経過する日の年の年末までに譲渡すること
・更地で譲渡する場合、譲渡する側が解体を行うこと
・家屋を譲渡する場合、譲渡時に耐震基準に適合していること
・平成28年4月1日から平成31年12月31日までに譲渡すること
・確定申告書に地方公共団体の証明書、その他の書類を添付すること
ここで注意しなければならない点があります。
それは「相続開始直前まで被相続人が一人で居住していたものであること」という点です。
これを証明しなければならないのですが、被相続人が高齢者だった場合、特養などの施設に入居していることがあります。
もし住民票を施設に移していた場合、この特例は適用されません。
*住民票を移動せずに施設にいた場合、グレーゾーンとも言われていますが、発覚した場合は罰せられる可能性があります。
なお「被相続人が一人で居住していた」と証明するには「被相続人居住用家屋等確認書」という書類を役場で交付してもらう必要があり、申請には次の書類が必要です。
・被相続人の除票住民票の写し
・被相続人が住んでいた家屋の譲渡時の相続人の住民票の写し
・家屋またはその敷地等の売買契約書の写し等
(取り壊し後売却する場合には取り壊し工事請負契約書の写し)
・電気・ガスの閉栓証明書、水道の使用廃止届出書
・売却時の仲介業者である宅地建物取引業者が当該家屋の現況が空き家であり、かつ、当該家屋は除去または取り壊しの予定があることを表示して広告していることを証明する書面の写し
・当該家屋の取り壊しの時から譲渡時までの、被相続人居住用家屋の敷地等の使用状況が分かる写真
・当該家屋取り壊しの時から敷地等の譲渡時までの、当該敷地における相続人の固定資産課税台帳の写しまたは固定資産税の課税証明書の写し
また、例えば土地と家屋で1億5,000万円の不動産を相続したとします。
このうちの半分を7,500万円で売却し、残りの半分に自宅を建てるといった場合であれば譲渡価額が1億円を超えませんので、他の要件を満たせれば特例が適用されます。
しかし、半分を7,500万円、翌年以降にさらに残りを7,500万円で売却、といったように分けて売却したとしても、合計が1億円を超えてしまいますので、最初の年に売った分も含めて適用外となります。
このように、特例の適用には様々な要件や必要な書類がありますが、適用されることによって最高3,000万円までの控除が受けられるのですから、要件を満たせる場合はぜい活用したいものです。
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すでに空き家を相続している場合、注意が必要
現在すでに空き家を相続している人でこの特例の適用を考えている人は、相続時からたとえ一時的にでも誰かが住んでいた場合は適用されません。
また、耐震補修をして家屋を売却する場合、建て替えてしまうと適用外となりますので注意が必要です。
放置してしまうとどうなる?
そうは言っても遠方にいてなかなか書類などが用意できない、取り壊したくない、という方もいるかも知れません。
しかし、放置してしまうことで様々なデメリットが待ち構えているということを知っておきましょう。
空き家を放置してしまうと…
・空き巣被害、放火被害など地域の治安悪化を招いてしまう
・倒壊などにより周辺住民に危害を加えてしまう恐れがある
・動物の糞尿、死骸、ゴミの腐敗などで周辺環境が悪化する
さらに、これらの心配がなかったとしても、平成27年5月26日に完全施行された「空き家対策特別措置法」によって、市町村が「特定空き家」とみなした場合、固定資産税の軽減対象から外れ、最大で6倍になります。
また、勧告や改善命令に従わなかった場合、強制的に撤去され、その費用は所有者に請求されます。
空き家対策につながるか?
実家や先祖代々受け継がれてきた土地などは、強い思い入れがあってなかなか売却に踏み切れないという人も多いことと思います。
また地方の空き家は購入希望者を見つけるのも難しく、たとえ耐震補修をしたとしても即売却に繋がるかどうかは難しいところではあります。
ですが、空き家を放置してしまうことで懸念されるデメリットやリスクを考えた時に、もし更地にして売却できるようであればぜひ、特例の適用を検討してみてはいかがでしょうか。