ニュータウンも空き家に?
全国にある様々な「ニュータウン」の空き家問題が深刻化しています。
価格面、生活する上での利便性など魅力的な要素が多くかつては繁栄を極めたニュータウンに今、何が起こっているのでしょうか?
かつては繁栄を極めたニュータウン
戦後の高度経済成長期において大都市圏への人口集中を軽減するための対応策として国が整備してきたニュータウン。
はたまた鉄道会社が鉄道の利用者を呼び込むため・および不動産での収益を上げるために沿線に整備したニュータウンなど、全国のいたるところにニュータウンと呼ばれる住宅地が存在しています。
形態としては集合団地であったり戸建てが並ぶ住宅団地などがあります。
このニュータウンの開発では住宅のみならず、商業施設や医療施設なども同時に整備されて来たため、当時の若いサラリーマン世代にとっては価格面においても生活をする上での利便性といった面でも非常に魅力的で、続々と購入・入居する人が増えていきました。
この頃、ニュータウンは「将来にわたって利便性が高いまま豊かな暮らしを維持して行けるまち」と誰もが思っていたもので、もちろん国や鉄道会社もそれを目指していたものと思われます。
同世代が一斉に入居してきたことで…
前述のとおり、ニュータウンは特に若いサラリーマン世代に人気を博し、同世代の世帯が一斉に入居するケースが目立ちました。
ニュータウンが人で溢れ返り繁栄を極めた時代もありました。
当時はもちろんそれで良かったのですが、それ以降、新たに入居者が転入しにくい状況となってしまったこと、ニュータウンで育った子供たちが成人したり、大学、就職、結婚などを機に親元を離れ別の場所に住居を構えるようになったことなどが増えて来ました。
やがて衰退へ
さらに、ニュータウンの住宅を購入した当時の若いサラリーマン世代は今や一斉に高齢化が進み、また出て行った子供たちの影響で人口は減少して行きます。
その結果、ニュータウンに併設された商業施設(小売業)や医療施設あるいはバスなどの公共交通機関などは需要の減少に伴って十分なサービスの提供を維持することが難しい状況に追い込まれて行きました。
当時の住宅もすでに建設から40年以上が経過しているところが多く、老朽化が進んでいたり現代の生活様式に合わなかったりするケースも少なくありません。
また、バリアフリー化の遅れや近隣施設の衰退、小学校や中学校などの遊休化も問題となっています。
東洋一のマンモス団地も今では…
かつて「東洋一のマンモス団地」と呼ばれたニュータウンがあります。
東京都板橋区の高島平団地です。
総戸数10,170戸を誇り、地下鉄で山手線への交通も確保されていたことから若い世代の人気を博しました。
最盛期においては7つの小学校と4つの中学校が設立され、1991年には人口がピークのおよそ25,000人を数えるまでに成長して行きました。
ところが2014年の調査では世帯数おそよ8,500、人口にして16,800人と激減してしまいました。
さらにそのうち65歳を超える人の割合が41.1%(およそ6,900人)、逆に15歳未満の子供の割合が5.0%(およそ840人)と、文字通り「少子高齢化」が著しく進んでしまっています。
建物自体も築40年を過ぎたため老朽化が進んでいること、高齢者の居住を前提として建てられた居住環境ではないためバリアフリー化が遅れていること、独居世帯が多いことなども、この問題に拍車をかけています。
現在、板橋区をあげて高島平団地の再生に力を入れていますが、果たしてこの先どうなるかは不透明です。
ニュータウンの空き家問題は深刻化している
このように、高島平団地をはじめ全国に整備されて来たニュータウンの「空き家問題」が深刻化しています。
空き家が増えることでどのようなことが懸念されるのでしょうか。
空き家が増えることによる4つの大きな問題
(1)景観
特に木造住宅においては、人が住まなくなった途端に老朽化が急速に進みます。
風通しのない室内ではカビや腐敗が進み、通水しなくなった水道管や排水管は錆びて穴が空いてきます。
庭では雑草や庭木が好き放題繁茂し、まさに「荒れ地」と呼ぶにふさわしい状態になってしまいます。
こうした空き家がたった一軒だったとしてもその地域の景観は悪化し、地域のイメージダウンへと繋がってしまうのです。
(2)治安
空き家はしばしば犯罪の温床となります。
例えば違法薬物の取引、性犯罪の現場、未成年者の喫煙や飲酒など人目につかないのを良いことに次々と犯罪を招いてしまう可能性があるのです。
さらに言えば火の不始末からくる火災や放火の恐れもあり、こうした輩が出入りするということだけでも地域の治安が大きく悪化してしまいます。
(3)衛生
空き家は不法投棄の恰好の場所となります。
本来であれば法に則って適切に処理しなければならない産業廃棄物、あるいは周辺住民によるゴミの投げ捨て、住み着いた野良猫や野良犬などの糞尿、死骸などからくる腐敗臭に加え、もし空き家にもともとゴミが残されていたとしたら化学反応などによる悪臭も懸念されています。
(4)安全
長年放置されて老朽化した空き家は、強風で屋根や外壁のトタンが吹き飛んでしまったり、地震によって建物が倒壊し隣家へ被害を与えてしまったり、通行人を巻き添えにしてしまうといった可能性も高くなります。
ニュータウンでも団地のような集合住宅では占有の庭などがあるところは少ないため当てはまらない部分もあります。
しかし空き家(空室)が増えてくれば当然、団地自体や排水管などの老朽化が進んでしまったり、何軒も並んで空き家になってしまった場合には不審者の侵入なども考えられます。
放置すればするほど老朽化はあっという間に進んでしまいますので、貸せない・売れない状況となってしまうのです。
ニュータウンの空き家問題は今後どうなっていくのか
空き家問題が深刻化しているニュータウンは他にも多数あります。
野村総合研究所の毛利一貴氏によりますと、例えば三大都市圏(東京・愛知・大阪)で見てみると、2000年~2010年の10年間で人口が減ってしまったニュータウンは
千里ニュータウン(大阪府吹田市・豊中市)▼7%減
泉北ニュータウン(大阪府堺市)▼7%減
高蔵寺ニュータウン(愛知県春日井市)▼6%減
多摩ニュータウン(東京都多摩市・稲城市・八王子市)▲11%増
となります。
さらに上記のニュータウンにおける高齢化率を見てみると
千里ニュータウン30%(▲19%増)
泉北ニュータウン24%(▲11%増)
高蔵寺ニュータウン22%(▲10%増)
と10年間で急速に増え、人口が増加した多摩ニュータウンにおいても9%増の17%に達しています。
かつては「憧れ」だったニュータウンも、今では空き家問題が深刻化してしまうほど衰退してしまいました。
これからの人口の減少に伴い、空き家問題はより深刻な問題となっていくことは必至です。
例えば国や鉄道会社、地域などが再開発または何かしらの打開策を練り、移り住む人も増え、ニュータウンの再生に成功したとします。
しかしそれは移住した人がそれまで住んでいた住宅が空き家になるということでしかありませんので、結局のところ空き家問題の根本的な解決にはなりません。
また、北海道夕張市やアメリカのデトロイト市の例からも「空き家率が30%を超えると財政破綻し地域がスラム化する」と言われています。
しかし空き家を解体して空き地にしてしまうことで逆に犯罪が増えてしまったというデータもあります。
空き家を放置してもダメ、空き地にしてもダメ…このように空き家問題は日本という国にとって根深く、そして重くのしかかってくる問題となっています。
国がどのような政策を打ち出していくのか、注意深く見守りたいところです。