特殊解体の技術をご紹介します。
家屋やビルの解体などはたまに目にする機会がありますが、それよりももっと大きな建造物や特殊な構造物などは、いったいどのように解体しているのでしょうか?
普段はお目にかかれない特殊解体の事例や工法についてご紹介いたします。
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解体は「ただ壊せば良い」ワケじゃない!
解体とは壊すことですが、むやみやたらに「ただ壊している」ワケではありません。
緻密な計算と確かな技術に裏付けられた、非常に高度な作業なのです。
例えば家屋やビルを解体する場合、どこを崩すと建物のバランスが崩れて倒壊の恐れがあるかということを事前にきちんと計算し、正確に作業を進める必要があります。
また、隣接する建物に危害を与えないように、万が一倒壊した時には、内側など最も安全と思われる方向に倒壊するように壊していくなど、被害を最小限に食いとどめるための方法も考えられています。
さらには作業員、通行人などの安全を最優先するための対策、天候などを考慮して臨機応変に作業行程を工夫すること、決められた予算の中で工期に間に合うような効率の良さなども求められます。
当然ですが、「解体しやすさ」を前提に建造物が作られているワケではありませんので「解体が難しい」建造物はとても多いと言われています。
それは建造物の構造だけではなく、周辺環境なども含まれます。
そのような「解体が難しい」と思われる建造物にはどのような解体方法が用いられるのでしょうか?
特殊解体工法の例
プラント、工場群、水中構築物、原子力発電所の炉、セラミック部材など特殊な解体現場は多数あります。
一般に、それらの解体には特殊な工法が用いられますが、具体的にどのような工法があるのでしょうか?
火炎ジェット工法
高温かつ高エネルギーのジェット火炎を超高速で噴射することで、コンクリートなどを溶断する工法です。
水素酸素ガス切断工法
水素酸素ガスが発生する「電解水の電気分解装置」を使用して鋼材をガス切断します。
レーザー工法
「レーザー発振機」を使用して発振されたレーザービームを複数のミラーを使うことで解体対象物の切断箇所へと導き、最終的には集光ミラーでエネルギーを一点に集め、強力なレーザービームによってコンクリートを溶解・切断します。
ダイヤモンドワイヤーソー切断工法
コンクリートカッターのブレード部分にダイヤモンドカッターを装着させ、コンクリートや金属などの建造物に巻きつけます。
そしてそのワイヤーソーを高速で回転させることで切断します。
アブレイシブウォータージェット工法
微粒ガーネットが混入されている超高圧水を研磨剤として使用し、直径3mm程度の細いノズルで対象物に向かって噴射し、切断する方法です。
マイクロウェーブ工法
マイクロ波の内部加熱の性質を利用した工法です。
電子レンジのようにマイクロ波を対象物に照射することでコンクリートを破砕することができます。
ここでご紹介しているのはごく一部はありますがが、このように様々な工夫がなされた工法があります。
火炎ジェット、水素酸素ガス、レーザービーム、ダイヤモンド、超高圧水、マイクロ波…まさかこのような物が解体時に利用されているとは思いもしないものも含まれていますね。
その他の特殊解体の例
ボイラーやタンク、煙突などの解体をすることもあります。
その際にはさらに特殊な工法が用いられることがあります。
例えばプラントなどの特殊解体をメインに行っているベステラ株式会社は「リンゴ皮むき工法」という画期的な工法を編み出しました。
《リンゴ皮むき工法》
この工法が編み出される前は、タンクなどの外側に足場を組み、地道にコツコツ解体していく方法が主流でした。
ところが、この工法ではタンクを上から1段目・2段目・3段目…というように区切り、まるでリンゴの皮を剥くように横に切断していきます。
作業はロボットが行うわけですが、切断された鉄材はタンクの内側に向かって、自重によって自然ととぐろを巻きながら落ちていきます。
これによって大幅な時間とコストの削減に成功しています(リンゴ皮むき工法はベステラ株式会社が商標権を取得しています)。
詳しい様子は動画をご覧ください。
さらにベステラ株式会社は煙突の解体においても多数の実績を誇ります。
塔状構築物の解体工法
内容・特徴
煙突等の搭状構築物の上部を斜め下方3方向から引張り、常に直立状態となるように支持しながら上下方向に移動可能な状況にし、下端部を除去しながら下降させ解体する工法。
従来の一般的な工法では、上方より解体していたため、高所での作業となり安全性に欠けていましたが、この工法を使用することにより、解体の前段階での搭状構築物を囲む足場の組み立て作業や進行状況に合わせた足場の撤去作業等が不要となり、工期の大幅な短縮、高い安全性の確保が可能となっております。
詳しくはこちらをご覧ください。
また、大成建設が開発した「テコレップシステム」という解体工法も煙突などの解体に活躍します。
テコレップシステムによる煙突解体
煙突の解体では、周りに枠組み足場を設置してシートで覆い、煙突上部から少しずつ解体をしていくというのが主流でした。
この方法では特に高い煙突では足場を組むだけでも大量の資材や時間、労力を要していたほか、シートで覆ってしまうため強風の時などは風に煽られて足場の倒壊や作業員の転落といった危険性がありました。
ところがこのテコレップシステムでは昇降が可能な「移動式の足場」を設置することでそれらのリスクを大幅に軽減しました。
テコレップシステムは高層ビルなどの解体時にも活躍する解体工法の一つです。
テコレップシステムについて詳しくはこちらをご覧ください。
このように近年、様々な特殊工法が開発されていますが、それらは解体作業の効率アップやコストダウン、安全性の向上のみならず、二酸化炭素の排出量を減らす、騒音や振動を軽減する、廃棄物の発生を減らすといった環境面に対しても非常に高い効果を発揮しています。
日本の解体技術はすごい!
今回は特殊解体の工法や事例についてご紹介してきました。
はじめにも言いましたが「解体」は緻密な計算と確かな技術が必要な非常に高度な作業です。
解体を体験することは人生において一度あるかないかという方がほとんどかと思いますが、解体作業にあたっている方々はこのようなプロ集団であるということを知り、専門知識や様々な工夫を凝らした技術が詰め込まれているということを知ることはとても大切なことではないでしょうか。
建築技術、解体技術いずれにおいても、日本は非常に高い技術力を誇ります。
これからどんな技術が開発されて行くのか、楽しみにしたいですね。