解体工事にはさまざまな“予期せぬトラブル”が伴います。
特に多いトラブル事例を中心に、苦情対策や損害賠償の責任の所在など家の解体工事で注意したいポイントをまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
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解体工事で注意すべき6つのポイント
まずは、注意したい6つポイントです。
- 近隣住民に十分な説明や挨拶をし、協力と理解を得ること
- トラブルがあったら誠心誠意対応すること(ただし解決できない場合は第三者の介入も検討すること)
- どのような騒音、振動、粉塵対策を施してくれるのか確認すること
- 工事の範囲や各種届出、許可申請については事前に入念に確認すること
- 廃棄物の処理方法は事前に確認し必要に応じてマニフェストの写しをもらうこと
- 見積もりがしっかりしている解体業者を選ぶこと
上記の大項目をご覧いただきながら、詳しい内容を以下で解説していきたいと思います。
実際にあったトラブル事例
まずは、家の解体工事で実際にあったトラブル事例の中でも特に目立つものをピックアップしましたので、早速見ていきましょう。
①隣家の壁を壊してしまった
意外と多いのが解体業者の不注意や不手際などによって隣家の壁を壊してしまった、損傷させてしまったというトラブルです。
隣家との距離が非常に近い場合は特に慎重かつ丁寧な作業が求められますが、不注意や不手際、あるいはブロック塀の倒壊や廃材の飛散などによって隣家の壁を壊してしまう可能性は十分に考えられます。
解体工事中に壊してしまった隣家の壁の修繕費用1,500万円の支払いを施主に命じたという判例も実際にあるほどです。
後述する“損害賠償責任の所在”など複雑に絡んでくる部分もありますが、まずは隣家の壁を壊してしまうリスクを最小限に止めるため、隣家と近い側を解体する場合は手壊しにしてもらう、飛散防止用のネットなどでしっかり保護してもらうなど盤石の構えが必要になります。
②挨拶なしで苦情
近隣住民への挨拶をせずに突然解体工事を始めてしまったため、苦情を入れられてしまったというトラブルです。
最悪の場合、解体工事が中止になってしまう可能性も考えられます。
基本的には、解体工事が始まる前に解体業者が近隣住民に挨拶や工事の説明に回ることが一般的となっています。
その際、工事期間中は騒音や振動が発生したり、工事車両が道路を使用することで迷惑をかけたりすることがある旨、そして細心の注意を払って工事を進めていく旨を伝え、近隣住民の理解と協力を得ることになります。
しかしながら、解体業者によるこうした挨拶は必須ではありません。
中には挨拶を行わない解体業者もいますので、その場合は施主(工事の依頼者、つまり多くの場合は家の所有者になります)が挨拶をするべきでしょう。
「解体業者が挨拶や説明をするもの」と勝手に思い込んでしまい、ノータッチでいると上記のようなトラブルが発生する可能性があります。
解体業者に依頼する際に…
- 近隣への挨拶は行ってくれるのか
- 行うとしたらどのような内容か
を確認しておくと同時に、できれば施主も解体業者と一緒に挨拶に回る、もしくは別日に改めて挨拶に回るといった配慮が欲しいところです。
③解体中のほこりが酷くて
解体工事中に発生した粉塵が隣家の庭まで飛散して洗濯物を汚してしまった、車のフロントガラスがほこりだらけになってしまった、窓からほこりが入って来て困るといったトラブルです。
解体工事では多くのほこりが舞います。一般的な解体業者であれば粉塵の飛散を防ぐために防塵シートを設置したり、水を撒きながら解体したりするのですが、中にはそうした養生や水を撒くといった対策を講じない解体業者もいます。
少量の粉塵ならまだしも、その中にアスベストが含まれているとしたら苦情どころでは済まされず、訴訟問題に発展する可能性が非常に大きくなります。
解体業者に依頼する際にどのような粉塵対策を行ってくれるのかを確認しておくことが大切です。
また、解体工事期間中もできれば業者に任せきりにならず、施主が自分で確かめ、粉塵対策が十分でないと感じれば追加で養生してもらうなどの措置を講じることが大切です。
④工事中の騒音や振動
ほこりと同じように、解体工事中は騒音や振動が発生します。特に重機を使って解体する場合、突然の大きな音や振動で驚いてしまう方も少なくありません。
「赤ちゃんが目を覚ましてしまって困る」
「突然大きな音を立てられたらびっくりする」
「うるさくて仕事や勉強にならない」
など、音や振動によって日常生活に支障をきたしてしまうというトラブルも絶えません。
一般的には防音シートを設置して、極力、工事中の音が外部に漏れるのを最小限に食い止めるよう工夫していますが、それでもある程度聞こえてしまったり多少の振動が発生したりしてしまうのは、どうしても仕方がないことです。
ここで、工事前の挨拶が非常に重要になってくる訳ですが、施主も解体業者に依頼する際、騒音や振動対策について確認しておくことをおすすめします。
また、少し騒音や振動が大きいかな?と感じたら、苦情が入る前に近隣住民へ「騒音や振動でご迷惑をおかけしています。ご理解とご協力をお願いします」といった旨の挨拶に回ることも検討しましょう。
近隣住民からすれば「解体工事は勝手にやっているもの。私たちには迷惑をかけないで欲しい」というスタンスになりますので、解体工事期間中はできる限り不快な思いをさせないように配慮することが大切になってきます。
近隣からの苦情対策
近隣からの苦情を防ぐためにはどのような対策を講じておくことが大切でしょうか?
繰り返しになりますが、まず大前提として「挨拶」が非常に重要になってきます。
その挨拶も、身なりがきちんとしていない作業員がぶっきらぼうに行うのか、スーツや作業服をきちんと着たスタッフが丁寧な挨拶をするのかでも近隣住民の印象は全く変わってきます。
挨拶の時点から解体工事は始まっている訳ですから、スタッフの身なりや対応なども含めて解体業者を選ぶということは大切です。
それに、近隣住民は解体業者がどこなのか、関心がありません。
あくまで「○○さんの家の解体」ですから「○○さんの印象」として残ってしまうことも覚えておきましょう。
では上記を踏まえたうえで近隣からの苦情を防ぐための対策を解説します。
①粉塵対策
先ほども少し触れましたが、粉塵対策としては防塵シートの設置、水を撒きながらの解体作業などが挙げられます。
解体工事前にライフラインを停止することになるのですが、その時に水も止めてしまうと粉塵対策が行えない可能性があります。
作業終わりの清掃に水を使用することもありますので、できれば水だけは残しておくことをおすすめします。
②工事のお知らせ
解体工事を行う旨のお知らせを事前に告知しておくことで「何か始まるのか」という心構えができますので、突然挨拶に行き“解体工事を始めます”と言うよりも効果的です。
時期が決まった時点でできるだけ早く、どのような工事を行うのか、いつからいつまで行うのか、責任者や連絡先などはどこか、といった情報を掲示しておきましょう。
③工事中の騒音
解体業者は騒音を最小限に抑えられるようさまざまな工夫を凝らしていますが、残念ながらゼロにすることは不可能です。
静かな住宅街であれば重機の音でさえも騒音と感じる方がいるかもしれません。
前述のように近隣住民は「解体工事は勝手にやっているもの」というスタンスですので、とにかく防音シートで騒音を最小限に食い留めてもらうようお願いするしかありません。
あるいはどうしても「騒音が気になる」「苦情が来そう」という場合は手壊しにできないか相談してみるという手もありますが、その場合解体工事自体に時間がかかりますので、費用が高くなる可能性があることも踏まえておかなければなりません。
また「○月○日○時~○時に重機を使う」というスケジュールが分かっていれば、その前日や前々日などに近隣住民に再度挨拶に伺うなどして、その期間中少しでも不快な気分を和らげてもらえるよう配慮することが大切です。
近隣住民の心理からすれば「突然、大きな音や振動、粉塵が発生」することが最も迷惑なことです。
事前に伝えておくことで、場合によってはその時間帯は家での仕事や勉強を避けたり、外出したりなど、見えない部分で協力してくれる可能性もあります。
騒音や振動、粉塵などへの対策は“できるだけ事前に”を心がけましょう。
④工事完了後の方付け
日々の作業終わりの片付けももちろん大切ですが、工事完了後の片付けも非常に重要です。
なぜなら、完了後は解体業者はもう来てくれない訳ですから、何かあった場合に施主が自分で対応しなければならなくなってしまうからです。
コンクリートガラや木くず、ガラ袋など廃棄物を残したままだったり、土や細かいゴミが道路に散乱していたり、隣家の敷地を汚したままだったり…そんな状態で解体工事が完了してしまっては苦情のひとつも入れたくなるものです。
整地まで行い、しっかり清掃をして完了とする解体業者がほとんどですが、中には十分な清掃や片付けを行わずいい加減なまま引き上げてしまう業者もいます。
できれば施主が最後の最後まで立ち会い、必要に応じて片付けの指示を出すなど“立つ鳥跡を濁さず”状態にすることが大切です。
このように、近隣からの苦情を防ぐための対策はいくつもありますが、しっかり対策を講じていても苦情が発生する可能性は大いにあります。
中には「え!?こんなことにまで苦情を言うの?」というケースも考えられますが、無視したり感情的になってしまっては逆効果どころか、最悪の場合解体工事を中断したり中止したりせざるを得なくなってしまう可能性もあります。
どのような苦情であっても、まずは相手の立場に立って誠心誠意対応することが大切ですが、中には解体業者であっても対応しきれない内容の苦情もあります。
あまりにも理不尽な苦情や埒があかない苦情の場合、解体業者と相談し、弁護士など中立的な第三者に介入してもらうことも検討しましょう。
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解体業者とのトラブル
ここまでは隣家や近隣住民とのトラブルについて解説してきましたが、続いては施主と解体業者との間で発生するトラブルを見ていきましょう。
①工事範囲にまつわるトラブル
「庭木は残して欲しかったのに撤去されてしまった」または「庭木も庭石も撤去して欲しいと伝えたのに残ったままだった」など、工事の範囲について認識のズレがあり、トラブルになってしまうというケースです。
入念に打ち合わせをしますので頻繁に発生するという訳ではありませんが、たとえば日雇い従業員を雇っている場合、外国人のアルバイトを雇っている場合などで指示がうまく伝わっておらず、誤って解体してしまったり残してしまったりするケースがあります。
また、一括見積もりサイト、工務店、ハウスメーカーなどを仲介して解体工事を依頼した場合も正確に伝わらない可能性が考えられます。
対策としては、打ち合わせをしっかり行うこと、そして解体業者に直接、工事を依頼することです。
また、解体工事を進めていく中で浄化槽など地中埋設物が発見されるケースも少なくありません。
これは現地調査の時点で発見できないことが多いため仕方がないことです。
大切なのは、そうした時に“勝手に撤去してしまい工事費用が追加になる”ことを防ぐことです。
「地中埋設物などを発見した場合、撤去の可否についてまずは施主に確認する」
など取り決めておくことが大切です。
②各種届出や許可にまつわるトラブル
床面積80平米以上の建物を解体する場合、建設リサイクル法に基づく届出が必要になり、この届出を怠ると罰則対象や工事の中止など、解体工事自体開始することができなくなってしまいます。
多くの場合、解体業者が代行して届け出てくれますが、基本的に届出の義務は施主にあります。
「依頼していたつもりが届出ていなかった」ということのないよう、事前に確認をしておく必要があります。
なお、代行を依頼する場合は施主の委任状が必要になりますので併せて覚えておきましょう。
そのほか、工事車両を一般道に駐車したりする場合は道路使用許可が必要になります。
こちらは解体業者が行うものですが、無許可で行ってしまうとやはり工事中止などに発展してしまいますので、施主から解体業者に確認しておきましょう。
③廃棄物の処分にまつわるトラブル
解体工事で発生する廃棄物は産業廃棄物となります。
自社で産業廃棄物を収集運搬したり処分したりできる許可を得ている業者であれば良いのですが、そうでない業者の場合、別の専門業者に収集運搬、そして処分を委託することになります。
問題は委託した場合で、少しでも委託費用を抑えて利益を上げようとするあまり不法投棄を働く業者も残念ながらまだ存在するようです。
不法投棄が発覚すると、それを行った業者はもちろんですが、施主も同時に罪に問われる可能性が出てきます。
廃棄物の行方には十分に注意が必要です。
専門業者に委託する場合、解体業者はマニフェストと呼ばれる産業廃棄物管理票を発行する義務がありますので、そのマニフェストを発行してもらえるか、写しをもらえるかなどを確認しておくことが大切です。
④料金にまつわるトラブル
ざっくりとした見積もりを出されたり、他社より大幅に安い見積もりを出されたりした場合は注意が必要です。
- 後から追加工事が必要になったなどと理由をつけて追加費用を請求してきた
- 本当にその料金でやってくれたものの、利益を上げるために廃棄物を適正に処理せず地中に埋められてしまった(または不法投棄されてしまった)
などトラブルが生じる可能性が高くなります。見積もりの時点で少しでも疑問が残る場合は解体工事を始める前に解決し、納得したうえで依頼しないと最終的に施主が損害を被ることになりますので注意しましょう。
このように、施主と解体業者との間でも多くのトラブルが予想されます。
すべては事前にきちんと確認しているか、取り決めているかにかかっています。
「知識がなく専門的なことは分からないから解体業者にすべてお任せ」
ではなく、施主も解体についてある程度基本的な知識を蓄えておくことが大切です。
損害賠償は誰の責任?
損害賠償に発展するケースとして最も考えられるのが
「隣家の壁を壊してしまった」
「隣家のカーポートの屋根を損傷してしまった」
「隣家の車のボンネットがへこんでしまった」
「家の前を歩いていた近隣住民にケガをさせてしまった」
など、隣家や近隣住民に何らかの被害を与えてしまった場合です。
この時の損害賠償責任は誰に生じるのでしょうか?
まず、民法第709条では次のように定めています。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
解体業者の不注意、または不手際などによって隣家を損傷してしまった場合、業者が損害賠償責任を負うことになります。
この時に非常に重要になってくるのが、そもそも業者が保険に加入しているかどうか、ということです。
多くの解体業者は損害賠償保険に加入していますが、中には未加入の業者もいます。
未加入の業者が隣家や近隣住民に被害を与えてしまった場合、事態は一気にややこしくなり、民事訴訟などに発展する可能性が高くなります。
解体業者に依頼する際、損害賠償保険に加入しているか、限度額はいくらか、補償範囲はどうなっているかなども併せて確認しておく方が良いでしょう。
また、同じく民法第716条では次のように定めています。
第716条(注文者の責任)
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
原則として施主ではなく解体業者が損害賠償責任を負うことになりますが、注文者(この場合は施主)に過失があった場合は、施主が損害賠償責任を負わなければならない可能性が生じてくる、ということになります。
施主が損害賠償責任を負わなければならない可能性が生じるケースとしては、たとえば…
※施主が解体業者に対して何も指示をしなかったため隣家が損傷した、あるいは被害の拡大が予想できたにも関わらず何も指示を出さなかったため被害が拡大した
※解体工事費用を抑えるため無理な工程や工法で発注したことに起因して事故などが発生し、隣家や近隣住民が被害を被った
このようなケースが当てはまると考えられます。
もっと細かく言えば「振動で隣家が傾いた」「隣家の車のボンネットがへこんだ」という場合、本当に解体工事が原因で傾いたりボンネットがへこんだりしたのかを調べなければならないなど、解体工事にまつわる損害賠償問題は非常にデリケートかつ難しい問題です。
もし損害賠償問題に発展した場合、まずは落ち着いて
- 施主
- 解体業者
- 隣家や近隣の住民
の三者で話し合いの場を持つか、まとまらない場合は弁護士など第三者に介入してもらうことも検討しましょう。
施主と解体業者との間でも、契約書に書かれている“損害賠償問題が生じた際の取り決め”などを事前に確認しておくことが大切です。
家の解体工事で注意したいのは6つ
今回は家の解体工事で注意したいポイントや対策などを解説してきました。
振り返ってみると、解体工事にはさまざまな“予期せぬトラブル”が伴うことが再確認できたのではないでしょうか?
ここで解説した以外にもケースバイケースでさまざまなトラブルが予想されます。
家の解体工事で注意したいことをまとめると
- 近隣住民に十分な説明や挨拶をし、協力と理解を得ること
- トラブルがあったら誠心誠意対応すること(ただし解決できない場合は第三者の介入も検討すること)
- どのような騒音、振動、粉塵対策を施してくれるのか確認すること
- 工事の範囲や各種届出、許可申請については事前に入念に確認すること
- 廃棄物の処理方法は事前に確認し必要に応じてマニフェストの写しをもらうこと
- 見積もりがしっかりしている解体業者を選ぶこと
このようなことが言えます。
解体工事は隣家や近隣住民の理解と協力を得てはじめて行えることは忘れないようにしましょう。
また、解体業者は挨拶や身だしなみなどがきちんとしていて信頼のおける業者を選ぶようにしましょう。