空き家の相続放棄が増えていると言われています。
「放棄=知らぬ、存ぜぬ」と思っている方も多いようですが、実は管理責任が問われることも…。
相続放棄した空き家について、解体費用も含めた正しい知識を身につけておきましょう。
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解体を考える前に!空き家の相続放棄に関する基礎知識
空き家の解体について解説する前に、そもそも「相続放棄」とはなにかについて簡単にお話をさせてください。
相続放棄とは?
簡単に言えば、遺産を相続する「権利」を放棄することです。
■遺産を相続することで負債のほうが多くなることが明確なとき
■ややこしい相続問題に巻き込まれたくないとき
■事業を特定の相続人にのみ継承させたいとき
などに相続放棄がなされるケースが多くあります。
たとえば、あなたが親の空き家を相続したとします。この場合のあなたは【相続人】、親は【被相続人】です。
相続放棄は【相続人】が「相続開始の事実」を知った日から「3カ月以内」に家庭裁判所へ申述するという決まりになっています。空き家を相続放棄したいときも、このルールが当てはまります。
ただし空き家のみを相続放棄することはできない
「これとこれは相続します。空き家は相続放棄します」はできません。
相続放棄とは、空き家を含め遺産すべての相続の権利を放棄することです。
空き家は不要だが、親の財産である車や今住んでいる家、土地はほしいという場合、そのすべてを相続するか、手放すかの2択になります。
あとから「やっぱり相続放棄は撤回します」もできない
原則として、一度相続放棄をしてしまうと撤回することができません。
極端ですが、あとから「埋蔵金が見つかった!」という場合でも、残念ながらあなたの次の相続人などが手にすることとなります。
相続放棄は慎重に&検討に検討を重ねて結論を
「空き家は要らない」など単純な理由だけで相続放棄をしてしまうと、思わぬ後悔をする可能性があります。
負の遺産から開放されるというメリットだけでなく
【すべての遺産を相続する権利を放棄する】
【原則として撤回はできない】
といったリスクにも目を向け、慎重に検討を重ねて判断しましょう。
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相続放棄した空き家でも解体費用は払わなければならない?
相続放棄をした空き家は「もう自分とはまったくの無関係」と思い込んでしまう方も多いようです。
ですが、もしそう捉えているとしたら注意が必要です。
相続放棄をした空き家にも管理義務が生じる?
【民法第940条】にはこう記されています。
“相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない”
引用:電子政府の総合窓口 e-Gov
たとえば、あなたが相続を放棄したとしても【その次の順位にいる相続人(あなたが兄なら弟など)】が空き家の管理を始めることができるまで、あなたは【自分の財産と同じように注意を持って管理し続けなければならない】という意味です。
つまり、相続放棄をしたからといって、必ずしも空き家の管理を免れるわけではないということです。管理には適正に維持するためのお手入れだけでなく、解体も含まれます。
あなたの次の順位にいる相続人が管理を開始すれば、あなたの管理義務はなくなると考えられます。
ですが、そのためには【私は相続放棄をした。だからあなたが相続人だ】と知らせなければなりません。
「知らせもしない、管理もしない」とどうなる?
相続放棄したことを次の相続人に知らせなかった場合、管理の義務は(民法上)、相続放棄をした人にあります。所有者ではありませんが、管理者ということにはなりますよね。
しかし民法では、空き家の管理についてまで詳しく言及していません。
でも、だからと言って「じゃあ管理しなくても問題ないのでは?」と思うのは早計です。
ここで忘れてはいけないのが【空家等対策の推進に関する特別措置法(通称:空き家法/空家等対策特別措置法)】です。
同法第3条では以下のように定めています。
“空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする”
引用:電子政府の総合窓口e-Gov
空家等の所有者又は【管理者】と書かれています。相続放棄をしたので所有者ではありませんが、管理する義務があるため実質的な管理者と受け取ることができます。
空き家法では
- 著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
このような状態にある空き家を「特定空家等」としています。
市町村の調査で、相続放棄した空き家がこのような状態と認められれば「特定空家等」に指定されます。
相続放棄をした空き家の解体費用は誰が負担する?
特定空家等に指定されるととどうなるかを見てみましょう。
- 改善のための「助言・指導」が行われる
- 改善が見られなければ「勧告」が行われる
- さらに応じないときは「命令」が下される
- 猶予期間内に改善が完了しなければ「行政代執行」が行われる
行政代執行とはつまり、解体と思ってほぼ間違いないでしょう。
解体にかかる費用はすべて、管理者に請求がいくことになります。
このことから「相続放棄をした空き家の管理が不適切で、市町村により特定空家等に指定された場合、最悪のケースとして解体費用を全額負担しなければならなくなる可能性がある」と言えます。
あくまで可能性のためケースバイケースですが「相続放棄した空き家の解体費用を負担することがあるかもしれない」と思っておいたほうが良いでしょう。
相続放棄した空き家の解体費用が払えない可能性があるときは?
「相続放棄した空き家が行政代執行などによって解体された場合、費用が払えないかもしれない」という方は、早め早めに手を打っておくことが大切です。3つのケースを紹介します。
「相続財産管理人」の選任を申し立てる
家庭裁判所へ申し立てを行います。仮にあなたが相続放棄をした空き家の管理をしなければならない立場にあったとしても、裁判所で「相続財産管理人」が選任され管理が開始されれば、あなたの管理義務はなくなります。
なお相続放棄をしても、実質的な管理者の立場にいますので、相続財産管理人の選任を申し立てることは可能です。
ただし、申し立てには数十万円(100万円を超えるケースは少ないようです)の予納金が必要になり、また1年以上という長い時間を要するケースが多いため覚えておきましょう。
相続放棄をせず、相続してから売却する
劣化がそれほど激しくない、立地条件がいいなど、ある程度の市場価値のある空き家だった場合は相続放棄せず、いったん相続してから売却に出す、賃貸物件にリフォームして貸し出すといった方法もあります。
「ただし相続放棄をしない」ことが前提のため、この方法については今から(相続が発生する前の段階から)、家族間で何度も慎重に検討し、不動産売却などの知識を蓄えたり、リフォーム資金を準備したりしておく必要があります。
今、解体や売却などの手を打っておく
「将来的に、自分にとって不要な空き家を相続しそうだ」と分かった時点で、(すでに空き家の状態なら)解体してしまう、リフォームをして売却や賃貸に出してしまうといった手を打っておくのが、もっともスムーズでしょう。
まとめ
相続放棄をした空き家でも、次の相続人が管理を開始するまでは放棄した人に管理義務が生じます。
特定空家等に指定され、行政代執行による解体が行われれば、その解体費用は管理者に請求が行きます。
こうしたトラブルを防ぐためにも、早め早めに動いておくことが肝心です。
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