インバウンドの増加や、東京オリンピック・パラリンピック開催中の訪日客に向けて、都市部ではホテルの建設が急ピッチで進められています。
その中には、既設ホテルや高層ビルを解体して建て直す現場もあります。総事業費・建設費などは話題になることも多いですが、解体費用って分かりにくいですよね!
この記事では、ホテルの解体費用の目安と、日本が世界に誇るホテルや高層ビルの解体方法を紹介します。
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ホテルや高層ビル、解体費用はいくらくらいになるの?
解体費用は、その建物の大きさ、解体方法、排出される廃棄物の量、人工(にんく)、足場、防音・防塵シート、基礎解体、その他付帯工事などなど、さまざまな条件によって大きく変わってきます。
そのため、携帯料金の「2,980円/月」などのように、分かりやすい目安があるわけではありません。
ホテルや高層ビルの多くはS(鉄骨)造、RC(鉄筋コンクリート)造、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造ですが、解体費用を概算する目安となる「坪単価」を見てみると、それぞれ次のようになります。
- S造…35,000円/坪
- RC造…45,500円/坪
- SRC造…60,000円/坪
実在する(した)ホテルの解体費用を、上記の坪単価の平均相場をもとに概算してみたいと思います。
廃業ホテルの解体費用1億8000万円!
例えば、山形県鶴岡市で2007年に廃業したホテルが、未だ手付かずのまま老朽化が進み、もはや廃墟と化していることで問題になっています。このホテルの解体費用は、およそ1億8000万円とされています。
これはあくまで一例であり、前述のように解体費用はケースバイケースではありますが、7階建て鉄骨鉄筋コンクリート造(延床面積約3100平方メートル)で1億8000万円とは、、、解体できずに放置されてしまうわけですよね。
なお、このホテルはSRC造、延床面積3100平方メートル(坪換算で937.75坪)ですから、単純計算で
60,000円×937.75坪=5626万5000円
となります。
平均相場とされる坪単価で単純計算しただけですが、解体費用だけで5600万円かかることになります。
ここに、先ほどお伝えした人件費、廃棄物の運搬や処分費用、足場や養生など仮設費用、解体業者の利益などさまざまな費用が加わり、トータル1億8000万円という解体費用になってしまうわけですね。
赤坂プリンスホテルの解体費用は20億超え!?
もうひとつ、2012年〜2013年にかけて解体され、その解体工法も大きな話題となった赤プリ(赤坂プリンスホテル)の新館の例を見てみましょう。
階数は地上39階・地下2階・塔屋1階で、構造は地上がS造・地下がSRC造です。
延床面積は67,750平方メートルです。
全構造がS造と仮定して延床面積で解体費用を概算してみると、次のようになります。
35,000円×20494.38坪=7億1730万3300円
もちろん、これも単純計算なのであくまで概算ですが、先ほどの山形県鶴岡市のホテルを例に考えると、解体費用の総額は、建物の解体費用のおよそ3倍程度になりますので、21億円以上はかかっているのでは?と予想できます。
いかがでしょうか?
ホテルや高層ビルの解体費用って、やっぱりケタが違いますよね…!
解体費用を捻出する余裕もなく廃業してしまった場合、解体したくても着手できず、放置されてしまうケースが多いのも、(本来、あってはいけないのですが)仕方ないようにも思えます。
なお余談ですが、山形県鶴岡市のケースは、平成26年11月に施行された「空き家等対策特別措置法」に基づく行政代執行で解体される予定です。
1億1000万円は国の補助、残りを鶴岡市が負担することになるようです。
ホテルや高層ビルはどうやって解体するの?
ところで、ホテルや高層ビルなどは、どうやって解体するのでしょうか?
さすがに、都市部にあるホテルや高層ビルは、海外のように「爆破解体」はできませんよね。
かといって、住宅などのように重機で一気に解体することもできません。
以前は、ホテルや高層ビルなどの解体は建物の中と外にタワークレーン(昇降可能な仮設揚重機)を設置して解体していく方法が一般的でした(現在も100m以下など高さによってこうした解体工法が採用されています)。
ですが、必ずしも効率が良いとは言えないことや、周囲への粉塵・騒音、廃棄物の落下などさまざまなリスクもあり、大手建設会社はそれぞれ、新しい解体工法が必要と考え開発に着手してきました。
その結果、いくつもの新しい解体工法が生み出され、現在、それぞれの現場で生かされています。
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赤プリの解体で用いられた「テコレップシステム」
グランドプリンスホテル赤坂の解体工事で採用されたのは、大成建設が開発した「テコレップシステム(Taisei Ecological Reproduction System)」です。
まず、解体の基本「建物の構造に関わらない部材や備品、設備などはすべて撤去する」ところから始まります。
次にホテルの屋根を超大型のジャッキで支えて「蓋」とし、その蓋の上から防音・防塵シートで建物の上部をしっかりと覆います。
この閉ざされた空間の中で「2層(2フロア)解体する→ジャッキを降ろす→2層解体する→ジャッキを降ろす」という工程を繰り返していくわけです。
内部では解体が進められていますが、外から見ると「本当に解体工事が行われているの?」と思えるほど、何もありません(防音・防塵シートにホテルが覆われている程度)。
しかも2層ずつ解体してジャッキが降りていく訳ですから、毎日そこを通る方は、「あれ?なんかこの前よりも赤プリが縮んでいない?」と驚くかもしれませんね。
「目立たないように」「美しく」「静かに」「縮む」解体で、かつ、作業の効率性や周囲への安全確保、環境への配慮まで考えられた、まさに画期的な解体方法だったわけです。
だるま落としのような鹿島建設の「カットアンドダウン工法」
逆に下層階から解体していく、鹿島建設の「鹿島カットアンドダウン工法」も素晴らしい開発です。
鹿島建設の旧本社ビルや、東京・大手町にあった、りそな・マルハビルなどの解体に採用されて話題となった工法です。
解体するホテルや高層ビル自体を「油圧ジャッキ」でしっかり支えます。
その状態で下階から解体工事を進め、だるま落としのように徐々に縮んでいくという解体方法です。
解体工事自体は、地上に近い下階でのみ行われます。
つまり、騒音の拡散、粉塵の飛散、廃棄物や部材の落下、作業員の転落…ならゆるリスクを最小限に抑えることができるわけです。
そのうえ屋根も最後まで残りますので、雨が降っても現場が濡れることなく作業が進められます。
内装に使われた部材のほとんどを、リサイクルできたとも言われています。
まだまだある!日本が世界に誇れる解体方法
大成建設や鹿島建設のほか、竹中工務店は「竹中ハットダウン工法」、大林組は「QBカットオフ工法」、清水建設は「シミズ・リバース・コンストラクション工法」といったように、大手ゼネコン各社は高い「安全性」「環境性」「効率性」を兼ね備えた、さまざまな解体方法を開発しています。
まさに、日本が世界に誇れる素晴らしき技術たちです。
ホテルや高層ビルなどの解体工事はなかなか目にする機会がなく、また現場を覗くことが難しいので、中でどんな工事が行われているか知ることはできませんが、こうした解体方法が生み出されているということは、知っておきたいですね。
ホテル解体のまとめ
ホテルや高層ビルの解体工事には、当然ですが多額の費用がかかります。
ただ、従来とは異なり、現在さまざまな解体方法が開発され、作業の効率化が進んでいます。
それによってコストダウンも可能になってきていますので、大幅に!とは行かないまでも、解体費用は今後、抑えられるようになっていくかもしれません。
各建設会社が、今後どういった解体方法を開発していくのかも注目したいですね!
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