今、マンションンが危ない
1960年代頃に始まったマンションの分譲ブーム。
以来50年以上が経過してその多くは建て替えや新耐震基準に則った補修工事が必要な状態にあります。
しかしながらほとんど進んでおらず、都市部や地方を問わず「危ないマンション」が急増しています。
建て替えが進まない背景にはどのような問題があるのでしょうか?また解決策はあるのでしょうか?
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2033年には築40年以上の老朽化マンションが264万棟に!
厚生労働省の発表によりますと、現在すでに築30年以上が経過しているマンションはおよそ180万棟(うち築40年以上が経過しているマンションはおよそ70万棟)とされています。
この数字が6年後の2023年にはおよそ260万棟(同129万棟)に増え、さらにその10年後の2033年にはおよそ450万棟(同264万棟)になると予測されています。
特に1981年の法改正以前に建てられ始めたマンションにおいては新耐震基準に満たないマンションがほとんどです。
30年以内に70%の確率で発生すると言われている首都直下型地震では首都圏で18万棟ものマンションが倒壊し、1万人以上が犠牲になると推測されています。
もし倒壊を免れても、老朽化が進んだマンションでは中層階が潰れたりして多くの方が犠牲になると言われています。
永久に建ち続ける建物などないということは誰もが分かっていることですが、マンションの分譲ブームが始まった1960年代、やがて来る建て替え問題について予測できていたはずなのに法やシステム等がきちんと整備されて来なかったことが、今になって大きな問題を呼んでしまっています。
どれくらい建て替えが進んでいるの!?
日本のマンションなどの建築物は「100年もつ」と言われています。
しかしこれは10年~20年ごとに行う「大規模改修工事」を行うことが前提です。
何もせずに100年ももつような建物は古民家などのしっかりとした建物以外にありません。
しかし、実際に建て替えられた・あるいは建て替えが進んでいるマンションは全国でも300例ほどしかありません。
数百万棟が老朽化してくるという時代に数百例(年間およそ10~30棟程度)しか建て替えられていないという厳しい現状があります。
マンションは事実上「建て替えができない」と言えるかも知れません。
なぜ建て替えが進まないの!?
マンションの建て替えは決してオーナーや管理会社が勝手に決めることはできません。
分譲においては集合住宅ですので、1戸1戸が別の所有者のものです(区分所有者と言います)。
建て替えるには全区分所有者の5分の4以上の合意が必要になるのですが、これが非常に難しい問題となっています。
理由としては・・・
■区分所有者が高齢となり管理組合が正常に機能していないため、話し合いが進まない
■区分所有者が高齢となり建て替えなどの面倒ごとを嫌う傾向にあるため、話し合いが進まない
■建て替えに2年~3年待っていることができない・建て替え期間中の引越しや仮住まいを嫌う
■相続による世代交代、所得階層、多様な人が住んでいることによる価値観の相違などによって区分所有者の考え方の違いが顕著に現れ、合意に至りにくい
といったことが挙げられます。
また、建て替えには非常に大きな費用が発生します。
マンションの建築費用も当然ですが、建て替えとなるとマンションの解体も必要になってきます。
解体費用だけでもかなりの高額になってしまいます。
1戸につき数百万円~数千万円の自己負担が必要となるケースも珍しくありません。
しかしながら経済状況は各家庭で異なりますので、費用不足のため合意に至らないというマンションも多いようです。
敷地内に複数棟を抱えている場合、それぞれの棟で5分の4以上の合意が必要になりますので、さらに困難を極めます。
合意に至らないマンションはどうなってしまうのか!?
合意形成ができないままどんどん老朽化していったらどうなるのでしょうか?
当然、建物の老朽化が進み、設備の陳腐化や社会生活の変化への対応が困難となり、中古市場のニーズにどんどん合わなくなって行きます。
そのため売りに出しても買い手がつかずスラム化してしまい、それがさらに老朽化に拍車をかけるという悪循環が生まれます。
老朽化したマンションは地震の際に倒壊するリスクも高くなりますので建て替えは急務なのですが、特に地方においては所有者の高齢化、人口の減少などが進みますのでこの悪循環が顕著に現れると懸念されています。
地方が抱える問題もある!
「公益社団法人・全国市街地再開発協会」が運営する「マンション再生協議会」によりますと、建て替えられた・あるいは建て替えが行われているマンションおよそ300例のうち90%近くは東京・埼玉・神奈川・大阪・兵庫・愛知などに集中しており、地方では10%程度と非常に低い割合になっています。
そもそも、老朽化したマンションのほとんどが都市部に集中しているため、地方には老朽化したマンションの数自体が少ないということも挙げられますが、地方には地方の問題もあります。
《容積率》
これは敷地面積に対して定められている床面積の上限のことです。
国はこの容積率の上限を1.5倍程度緩和することで、建て替える際に戸数を増やし新たな入居者を募り、売却費用を工事費用に充てることで負担を減らすという狙いがあります。
しかし都市部ではある程度新規入居者が見つかる可能性がありますが、人口が減少している地方においては新規入居者が見つからないケースが多く、現実的とは言えません。
売却の際に高値が期待できない
都市部などのマンションの需要が高い地域では、建て替えによって負担が発生しても高値で売却できたり融資を得られたりする可能性があります。
しかし、昨今の日本の経済状況を鑑みても、地方では建て替えた後のマンションに高値がつくとは言いがたく、それが地方の老朽化マンションの建て替えが進まない原因の一つにもなっています。
敷地を含めたマンション全体を売却してしまう方法もある!
2014年に「マンション建て替え円滑化法」が改正され、それまでは区分所有者全員の合意を得られなければ売却できなかったものが、5分の4の合意で売却できるようになりました。
無事に売却することができればその売却費用を区分所有者全員で按分し、引越し資金や次の住宅の購入費用などに充てることも可能です。
しかし売却先は資金力がある企業などに限られることや、売却後にそこに住める保証がないこと、少しくらい安くても良いから売ってしまいたいと考える人と、できるだけ高値で売りたいと考える人との間で話がまとまらないことなどが足枷となっているようです。
有効な対策はない
区分所有者の年齢や家族構成、所得階層など様々な事情によって、5分の4以上の合意を得ることが非常に困難となっています。
そのため建て替えに至るまで10年以上話し合いを続けるというケースも少なくありません。
また超高齢化社会を迎えるにあたり、主な収入源が年金という人が増えれば建て替え費用を自己負担できるほどの余裕がなくなることも予測できますし、たとえ自己資金があったとしても30年40年50年先のことのために多額の費用を使うよりは、遺産として残したいという考えに至ることも自然ではないでしょうか。
これからのマンション問題
いかがでしたでしょうか?
マンション問題は今後さらに切実になってくる事だと思います。
東京ですら人口の減少が予測されている時代です。
今後ますます老朽化マンションの問題が大きくなってくることは目に見えていますが、残念ながら国が打ち出している様々な政策も現時点で「有効」と呼べるものはありません。
購入者一人一人が築浅のうちからしっかりと「建て替え」や「大規模改修工事」などに備えておくこと、管理組合を機能させ話し合いをしておくことが大切になってきます。
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