解体工事には必要な届出書類が多くある
解体工事には様々な法律が絡んでくるほか、事前に必要な届出、工事完了後に必要な届出、施主(発注者)に生じる義務、受注者に生じる義務など押さえておかなければならないポイントがいくつもあります。
「うっかり忘れてしまって罰則を受けることになった…」
とならないよう、解体工事に必要な届出書類にはどのようなものがあるのか把握しておきましょう。
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解体工事を行う前に必要な届出一覧
解体工事を行う前に必要となる届出にはどんなものがあるのでしょうか。
建設リサイクル法に基づいた届出
まず着工前に届出を済まさなければならないのが「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(通称:建設リサイクル法)」に基づいた届出です。
建設リサイクル法の対象となるのは・・・
-
特定建設資材を用いた建物
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床面積の合計が80平米以上の建物
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工事費用が500万円以上の解体
です。
一般家屋の解体となるとそのほとんどは「床面積の合計が80平米以上」あるいは建材によっては「特定建設資材を用いた建物」に該当しますので、同法の対象となると思って良いでしょう。
届出は着工の7日前までに各都道府県知事(政令指定都市の場合は市長)に提出しなければなりません。
なお、原則として施主(発注者)に申請の義務がありますが、多くの場合、解体業者が代理で行ってくれます。
その際は委任状が必要になりますので覚えておきましょう。
解体届出書の内容
1.所定の届出書
・施主の住所
・工事の名称(○○住宅解体工事等)
・解体工事現場の住所
・工事の種類
・床面積の合計
・元請業者の情報
・工程表
・設計図または写真
・現場付近の見取り図(Google MAP等でも可) など
2.分別解体等の計画
・建物の構造(木造、コンクリート等)
・建物の状況(築年数、棟数等)
・作業場所や搬出経路の確保または必要な許可の届出の有無等
・石綿の有無
・工程ごとの解体方法
・廃棄物発生見込み量 など
届出書や計画書は都道府県ごとに様式が異なりますが、およそ上記のような情報が必要になります。
また石綿(アスベスト)除去作業が伴う場合、事前に含有量を調査し、その量に応じて所轄の労働基準監督署および都道府県知事などへ届出が必要なケースもあります。それがこちらです。
3.工事計画届(耐火建築物等の吹付け石綿の除去作業の計画書)
作業開始14日前までに所轄の東堂基準監督所長宛に提出→作業レベル1
4.建築物解体等作業届(保温材等が張り付けられた建築物の解体等の作業届)
作業開始前までに所轄の労働基準監督署長宛てに提出→作業レベル1と2
5.特定粉塵排出等作業の実施の届出
作業開始14日前までに都道府県知事(または地方自治体の長)宛てに提出→レベル1と2
*アスベストのレベルについてはこちらの記事をご覧ください。
「特定粉塵排出等作業の実施の届出」については原則として施主に提出義務がありますので、こちらも併せて覚えておきましょう。
道路使用許可
次に工事期間中、作業用車両や資材用車両を駐車する場合などは管轄の警察署長に「道路使用許可」を申請し承認してもらう必要があります。
この申請については解体業者に義務がありますが、見積りに「道路使用許可」の項目があるかどうか、もしなかった場合は申請してもらえるかどうかも念のため確認しましょう。
ライフラインの停止
解体工事期間中はガス、電気、電話、インターネット、水道などのライフラインを停止したり撤去したりすることになるのですが、ギリギリではなく「○月○日から解体工事を行うため○日に止めて欲しい」という形で1週間前までに連絡するようにしましょう。
なお、水道に関しては解体業者が清掃や粉塵が舞うのを防ぐためなどに使用することがありますので、停止させる前に確認した方が良いかもしれません。
その他
上記以外には、消防法の規定によって届出が必要かどうか判断されるものですが「危険物貯蔵所廃止届」あるいは「消防指定水利廃止届」などがあります。
建設リサイクル法とは何か?
建設リサイクル法は平成12年5月31日に公布された「建設工事に係る資材の再資源化に関する法律」のことで、特定建設資材の分別解体および特定建設資材廃棄物の再資源化等の促進を目的としています。
主なポイントとしては次の3つです。
1.建築物等に使用されている建設資材に係る分別解体等及び建設資材廃棄物の再資源化等の義務付け
特定建設資材を用いた建築物等の解体工事、または特定建設資材を使用する新築工事等で「一定規模以上の工事の受注者または自主施工者」は、施工方法に関する基準に従って分別解体等し、再資源化等することが義務付けられています。
対象となる特定建設資材
- コンクリート
- コンクリートおよび鉄からなる建設資材
- 木材
- アスファルトコンクリート
対象となる特定建設資材廃棄物
- コンクリート塊
- 建設発生木材
- アスファルトコンクリート塊
対象となる工事
- 床面積80平米以上の建築物の解体工事
(新築、増築、修繕工事等、建築物以外の工作物の工事においてもそれぞれ対象となる基準があります)
2.施主(発注者)または自主施工者による工事の事前届出、元請業者からの発注者への書面による報告の義務付け
施主等による工事の事前の届出、元請業者から発注者への完了報告などが義務付けられています。
3.解体工事業者の登録制度や技術管理者の設置解体工事業を営もうとする者の登録及び解体工事現場への技術管理者の選任等の義務付け
平成26年6月の法改正によって登録免除許可業種が「とび・土工工事業」から「解体工事業」に変更となりましたが、改正法施工前にとび・土工工事業の許可を得ている場合は平成28年6月1日から3年間に限り解体工事業の登録が不要です。
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アスベスト解体工事に必要な届出
アスベストを含む建材を使用した建物の解体にあたっては「建設リサイクル法」のほか「労働安全衛生法」「大気汚染防止法」「廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)」など様々な法律が絡んできます。
撤去作業を開始する前に届出が必要になるのですが、アスベストはその発塵性の違いによってレベル1~3に分類されていて、それぞれ提出する届出や提出先が異なります。
レベル1:発塵性が著しく高い
耐火建築物の梁や柱、エレベーターの周囲、立体駐車場の天井や壁、ビルの機械室・ボイラー室の天井や壁、体育館の天井や壁などに使用されていることが多い「石綿含有吹き付け材」の除去作業はレベル1に該当します。
事前に含有量などの調査を行い、労働基準監督署に「工事計画届」および「建築物解体等作業届」を、都道府県知事に「特定粉塵排出等作業の実施の届出」および「建設リサイクル法に基づく届出」をそれぞれ提出する義務があります。
レベル2:発塵性がやや高い
建築物の梁や柱、壁の耐火被覆材、ボイラー本体や配管・空調ダクトなどの保温材、屋根用の折板裏断熱材などに使用されている「石綿含有保温材」および「耐火被覆材」「断熱材」などの除去作業はレベル2に該当します。
事前に含有量などの調査を行い、労働基準監督署に「建築物解体等作業届」を、都道府県知事に「特定粉塵排出等作業の実施の届出」をそれぞれ提出する義務があります。
レベル3:発塵性が比較的低い
建築物の屋根材、外壁材および天井、壁、床などの内装材として用いられる「石綿含有成形板」「ビニール床タイル」の除去作業はレベル3に該当します。
レベル1と2と同様に事前の含有量調査は必要ですが、特に何らかの届出の義務はありません。
石綿含有成形板やビニール床タイルは割れにくい建材ということもあり、注意して作業に当たれば飛散のリスクは低いと言えますが、含有量はゼロではありませんので慎重に行う必要があります。
火災物件解体に必要な届出
火災に遭った物件を解体する場合でも、一般的な物件の解体と変わりませんので、特別な届出をしなければならないということはありません(アスベスト含有建材を使用している場合は上記の届出が必要になります)。
その代わり、管轄の消防署から災害による被害の度合いを証明するための「り災証明書」を受け取っておきましょう。
融資や保険金、あるいは自治体の補助金などを受ける際に必要になることがあります。
家屋解体後の手続き
解体工事が無事に完了したら、最後に「建物滅失登記」を行います。
建物滅失登記とは?
「その土地の上に建物が存在しなくなったこと」を証明するための登記で、法務局の登記簿上に登記する手続きを言います。
解体工事完了から1ヶ月以内に行います。
手続きには
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登記申請書
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申請書の写し
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解体業者に発行してもらう取毀し証明書
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解体業者の印鑑証明書および資格証明書または商業登記簿謄本
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現場周辺が分かる地図(Google MAP等でも可)
が必要になります。
およそ1週間程度で滅失登記が完了し「登記完了証」が発行されます。
なお、手続きに迷いそうな時、時間がない時などは土地家屋調査士に依頼することも可能ですが、その場合は手数料4万円~5万円程度、依頼人の印鑑証明書および委任状が必要になりますので覚えておきましょう。
解体工事の手続きを怠るとどうなるのか?
このように、解体工事には様々な届出が必要になってくるのですが、これらをもし怠った場合、あるいはうっかり忘れてしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか?
建設リサイクル法に違反した場合の罰則
建設リサイクル法における罰則はその違反内容によって異なります。
東京都の例をいくつかご紹介します。
- 対象となる工事の届出違反 20万円
- 対象となる工事の変更届出違反 20万円
- 分別解体等義務の実施命令違反 50万円
- 再資源化等義務の実施命令違反 50万円
- 廃棄等の届出違反(解体業者) 10万円
- 技術管理者の設置違反(解体業者) 20万円 など
なお、解体業者に委任した時点で解体業者に届出の義務が生じますので、もし解体業者が届出を怠った場合でも施主は罰せられないというのが原則のようです。
道路使用許可の申請を怠った場合の罰則
本来道路使用許可が必要であるにも関わらず、申請をせず無許可で道路を使用してしまうと3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。
また、道路占用許可が必要なのに無許可で占有した場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
道路使用許可の申請義務は解体業者にありますが、もし無許可で解体工事を始めてしまい、途中で違反であることが判明した場合、一時的に工事が中止になってしまう可能性もあります。
着工前、あるいは問い合わせ時や見積り時に道路使用許可を申請してもらえるかどうか確認するようにしましょう。
アスベスト含有建材を使用した建物の解体に関する違反の罰則
前述のように、アスベストの除去にはいくつかの法律が絡んできます。
それぞれ罰則規定がことなりますが、「大気汚染防止法」を例に挙げると次のような場合、罰則が施主に科せられます。
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レベル1および2のアスベストの撤去作業を行う際の届出を怠った場合
これまでは解体業者などの施工者に届出の義務がありましたが、平成26年6月1日より施行された改正大気汚染防止法においては届出の義務が「施主」に変わっています。
届出自体を怠った場合または、虚偽の届出を行った場合、3ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。
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立入検査における妨害等
都道府県知事等による報告徴収の対象に「届出がない場合を含めた解体工事の発注者、受注者または自主施工者」が加えられ、立入検査の対象に「解体等工事に係る建築物等」が加えられました。
もし検査を拒んだり、妨げたり、あるいは忌避したりすると30万円以下の罰金が科せられます。
- 石綿使用の有無の事前調査、説明、掲示の義務を怠った場合
解体工事の受注者および自主施工者は石綿使用の有無について事前調査を行い、その結果を解体工事等の場所に掲示すると同時に、解体工事の受注者は施主に対して調査結果を書面で説明することが義務づけられました。
これに違反した場合の罰則規定は特に設けられていませんが、違反していることが判明すると工事が一時的に中止になってしまう可能性が高くなりますので忘れずに行うようにしましょう。
建物滅失登記を怠った場合の罰則
建物滅失登記の手続きを怠った場合は10万円の過料が科せられます。
さらに登記簿上は「その土地の上にまだ建物が存在している」ことになりますので、土地を売却することができなかったり、銀行等から借り入れができなかったり、あるいは固定資産税が課税され続けたりします。
こちらは建設リサイクル法の届出とは異なり解体業者が代行してくれるものではありませんので、忘れずに手続きを行いましょう。
解体工事の届出書類は確実に
解体工事は「一生に一度あるかないか」だからこそしっかり押さえておきたい、解体工事に必要な届出書類や罰則などについて解説してきました。
これが全てではありませんが、様々な届出や調査などが義務付けられていることがお分かりいただけたことと思います。
一般的な住宅の解体工事は一生に一度あるかないかというものであり、また法改正などによって対象の範囲等が変更になることもありますので、意図せずして違反を犯してしまう可能性も否定できません。
もし不安な場合は、解体工事を依頼した業者に相談したり、管轄の自治体に相談したりするなどしてしっかりと必要な届出やルールについて把握しておくようにしましょう。
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