店舗の原状回復工事を詳しくご紹介
原状回復はアパートやマンションなどの賃貸物件に入居している方、ビルのテナントとして事業を営んでいる方などにとっては非常に重要な問題で、トラブルも散見されます。
今回はその原状回復工事におけるルールや費用の相場について解説します。
【こちらの関連記事もご覧ください】
原状回復のルールや法律は?
現在のところ原状回復に関する明確なルールはありませんが、2017年5月26日、債権関係の民法改正法案が国会で成立しました。その中で原状回復に関わる主な内容は…
-
敷金と原状回復に関するルールの明確化
-
建物の修繕に関するルールの創設
の2点です。
ただし、施行されるのは「公布(2017年6月2日)から3年以内」とのことですので、おそらく2020年頃になるだろうと言われています。
それまでは国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が考え方の基盤になるものと思われます。
原状回復は「個人(住居として賃貸している場合)」と「法人(テナントに入居して事業を営んでいる場合・個人事業主も含む)」で異なる点がありますので、それぞれについて一般的なルールを見てみましょう。
アパートやマンションなど賃貸物件に住居として入居している場合
国交相のガイドラインを読み解くと、賃借人(入居者)が原状回復の義務を負うのは「故意による過失または長期間手入れをしなかったことによって生じた損耗」および「通常では想定されていない使い方によって生じた損耗」のケースということになります。
逆にそれ以外の「自然損耗」や「普通に生活をしていても起こりうる損耗」などについては賃借人に義務はないと捉えることができます。
おそらく多くの賃貸借契約書には上記のような考え方に基づいてルールが記載されていることと思いますが、ここでいくつか具体例を挙げてみます。
まず「賃借人が原状回復の義務を負うもの」としては…
- 飲みこぼしや食べこぼし等の手入れ不足によって生じた床のシミ
- タバコの火種を落としたことによって生じた焦げ
- 引越作業時などに生じたキズ
- 清掃を怠ったため付着した台所のスス・油汚れ
- 壁にあけた釘穴・ビスによって必要となった下地の石膏ボードの張替え
- ペットによって生じた柱等にキズ・臭い
このようなものが考えられます。
一方、「賃貸人負担となるもの」としては…
- 家具や家電の設置による床の凹みや設置跡
- テレビや冷蔵庫の後部壁面の電気やけ(黒ずみ)
- 日光などの自然現象による壁のクロス、床の変色
- 下地の石膏ボードの張替えは不要な程度の画鋲やピンの穴
- 破損または紛失等していない場合の鍵の取替え
- 機器や設備の劣化および寿命による不具合・使用不能
などが考えられます。
続いて、ビルのテナントのケースを見てみましょう。
ビルなどのテナントに入居して事業を営んでいる場合
店舗やオフィスなどの一般的な賃貸借契約の多くは、契約終了時に原状回復の義務を課しています。
原状回復とは「入居時の状態」に戻すことを意味しますので、入居時にスケルトンだった場合はスケルトン工事が、何らかの設備や備品などが備わっていた場合はそれらを元どおりにする必要があります。
そうなると内装解体工事、スケルトン工事、産業廃棄物の処理などを含めた原状回復工事を行うことになります。
具体的には…
- 造作や設備機器の撤去
- 床や壁、天井などの修繕
- 看板などの撤去
- クロスや床の張り替え
- 間仕切りなどの撤去
- 室内クリーニング
- 水道、電気、ガス、電話回線などの設備工事
を行い、必要に応じて建物の構造体以外の内装を全て解体して壁・天井・床・柱・配管・配線・吸排気設備等を入居時の状態に戻すスケルトン工事を行い、それらの工事で発生した産業廃棄物を処理するという流れになります。
なお、たとえ居抜き物件を借りた場合でも、退去時にはスケルトンで返却しなければならないケースも少なくありません。
また契約内容にもよりますが、自然損耗や通常損耗の部分についての原状回復も賃借人の負担になるケースが多いようです。
これらを総合的に考えると…
- 住居として賃貸している場合
→賃借人の故意・過失・怠慢による損耗は原状回復の義務を負う
→普通に生活をしていて発生する損耗は原状回復の義務を負わない
- テナントとして入居し事業等を営んでいる場合
→原則として原状回復の義務を負う
ということになり、居住用のアパートやマンションの原状回復と比べると事業用の原状回復は賃借人に非常に負担が大きいものと言えます。
【こちらの記事もご覧下さい】
関連記事の一覧はこちらから
原状回復工事の費用相場
原状回復工事において明確な費用相場は存在しませんが、ここでは一般的と言われている費用相場をご紹介します。
アパートやマンションなど
- 30平米(およそ9坪)未満…50,000円~100,000円
- 30平米以上…3,000円/平米~
などのように、床面積によって料金が異なるケースが多いようです。
また綺麗に使用していたため特に原状回復工事はそれほど必要ない場合でもルームクリーニングが入ることがほとんどです。
その場合原状回復工事費用とは別に20,000円~40,000円程度の費用が発生します。
オフィスや店舗など
そのオフィスや店舗の規模によって費用相場が変わってきます。
- 100平米(およそ30坪)程度のオフィスや店舗…300,000円~500,000円
- 300平米(およそ90坪)程度のオフィスや店舗…500,000円~1,000,000円
- 500平米(およそ150坪)程度のオフィスや店舗…2,000,000円~4,000,000円
などが相場になるようです。
ただし、設置型のパーテーション・壁・ドアなどを大きく変更したり、入居前に使用されていた材料のグレードが高かったり、配線や配管その他の設備工事が多くなるなどのケースでは費用もその分加算されますので、原状回復工事費用がかさむ可能性があります。
原状回復におけるトラブルを避けるために
今回は原状回復工事におけるルールや工事の費用相場などを解説してきました。
住居として入居している場合の敷金や原状回復におけるルール、建物の修繕に関するルールは民法の改正により今後明確化していくものと思われますが、事業用の物件においては「契約自由の原則」が認められていますので「契約書の内容」に依るところが非常に大きくなります。
しっかり理解したつもりでも、現実問題として退去時の原状回復については個人・法人問わずトラブルが後を絶ちません。
お互いが納得して気持ち良く契約を終了させるためにも、そして不用意なトラブルを避けるためにも、次のポイントを押さえておきましょう。
契約内容を再度見直してみる
契約時に理解していたつもりでも見落としていたり、実は捉えていた意味合いが違ったりするケースも少なくありません。
契約終了まで時間がある早い時期に一度契約内容を見直し、その上で不明点については今のうちにオーナーに確認をし、話し合いができるのであれば事前に原状回復工事に関してある程度の取り決めをしておくのも良いでしょう。
写真を撮影しておく
これは入居時の話になってしまいますが、特に原状回復がほぼ必須とされているテナント入居の場合は、事業を始めるための内装工事の前の段階でどのような状態だったかを写真に収めておいたり、内装材に関する記録を残しておいたりすることも大切です。
相見積りをとる
原状回復工事を行う解体業者やリフォーム業者から見積りを取る際は、少なくとも2社以上から取り寄せて項目ごとの費用などを比較することをお勧めします。
また産業廃棄物の不法投棄や不適切処理の可能性がある「安すぎる業者」や「マニフェストを確認させてもらえない業者」などはできれば避けた方が無難でしょう。
以上の点を押さえて、トラブルを未然に防ぐための対策を取っておくことをお勧めします。
【こちらの記事もご覧下さい】